小説・物語

《読書感想・要約》そして、バトンは渡された 著:瀬尾まいこ

2019年本屋大賞受賞作品です。

この時の本屋大賞には、私の大好きな平野啓一郎先生の『ある男』もノミネートされましたが、5位になり残念だった記憶があります。

その時の1位だったこの本は、題名の「バトン」も気になったので、必ず読もうと決めてました。

著者紹介

瀬尾まいこ

1974(昭和49)年、大阪府生れ。大谷女子大学国文科卒。2001(平成13)年、「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年、単行本『卵の緒』で作家デビュー。2005年、『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、2008年、『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞、2019年、『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞する。他の作品に『天国はまだ遠く』『あと少し、もう少し』などがある。

新潮社さまより引用

中学校の国語講師を勤めながら、執筆活動開始されたそうです。講師時代に自らの経験を綴ったエッセイなども執筆されたそうです。

この経歴をみると、出版する度に何かしらの賞を取っているというイメージで、他の本も読みたくなってきます。

読書感想・要約

血の繋がらない親の間をリレーされ、四回も名字が変わった森宮優子、十七歳。だが、彼女はいつも愛されていた。身近な人が愛おしくなる、著者会心の感動作。

本書の帯より引用

Amazonでも本屋さんでも本を買う時、本の内容を少しでも理解しようと、カバーや帯に書かれた言葉を積極的に読みます。

この本の帯に書かれていた文章を読むと、疑問に思っていた題名の「バトン」が、どうやら主人公の「森宮優子」のことのようです。おそらく親が何度も変わる悲しい出来事から始まる感動話だろう、と思っていました。

 

読み終えてから気になって実際にあった話なのか、調べてみましたが著者がハッキリと実話ではないと言ってました。しかし本を読んでいると、実話であって欲しいと思えるほど、素敵な物語に引き込まれます。

雪の上に置かれた本

変化する生活

バトンである主人公の優子は、生まれてから家族構成が8回も変わってました。前後の関係を整理するためにも、順番にまとめてみました。

  1. 実の両親との暮らし・・・水戸優子
  2. 実の父親(水戸秀平)との二人暮らし・・・水戸優子
  3. 水戸秀平と梨花との暮らし・・・水戸優子
  4. 梨花とふたり暮らし・・・田中優子
  5. 泉ヶ原茂雄と梨花との暮らし・・・泉ヶ原優子
  6. 泉ヶ原茂雄とふたり暮らし・・・泉ヶ原優子
  7. 森宮壮介と梨花との暮らし・・・森宮優子
  8. 森宮とふたり暮らし・・・森宮優子

ラストシーン後には、更に新しい生活が待っていると思うので、9回以上になると思われます。家族構成がこれだけ変わり、名字も4回変わってます。

 

「親が変わって名前が変わる」という文章を読み、真っ先に自分の息子を思い出しました。私の場合は婿養子として結婚後に息子が生まれました。その後離婚して自分だけが家を出たため、息子の名前は変わらず、私の名前だけが変わりました(笑)。主人公と息子では全然境遇が違うことがわかり、一人で笑ってしまいました。

 

主人公の優子は普通ではない家庭環境があり、自ら望んでいないのに大変な苦労をしてきただろうと、勝手に想像して切ない気持ちになります。自分だったら弱い性格のままグレてしまい、ネジ曲がった方向に進みそうです(笑)

主人公の優子は、私と違って強くてたくましいのです。物語の序盤、私は、主人公の強さの秘密は、変化の激しい家庭環境の中で鍛えられたせいなのだろう、と思っていました。

しかし物語を読み進めていくと、その考えは間違いだと気が付きます。その強さは家庭環境の変化からではなく、血の繋がってない親達から、無条件の愛情をたっぷりと注いでもらったからなのです。

人が強くなれるのは、獅子の子落としのような、過酷な環境を与えられるからではありません。無条件の愛情を注がれるからです。その愛情が強さとたくましさを生み、さらには優しさをも育むのだろう、と考えされられました。

最後の父親

森宮壮介が最後の父親でした。

東大卒で仕事は出来る37歳のエリートですが、家族や子育てについては素人な人物でした。頑張りすぎて、いつもトンチンカンな行動や会話が繰り広げられてしまいます。

しかし、この森宮さんが愛情を込めて作る全ての料理が美味しそうなのです。「朝からの『かつ丼』」や「何日も続く『餃子』」など(笑)。極めつけは、優子の試験前日の夕食の『オムライス』です。「今日はよく寝て、本番に備えよう。合格できると信じてリラックスしながらがんばって!」とケチャップで長々とメッセージが書かれているのです(笑)

 

また合唱コンクールのシーンも良いです。優子の合唱コンクール前日(優子は伴奏を担当)に、森宮さんが課題曲をこっそり練習して、伴奏の練習を手伝ってくれていたのです。

その気持に応えるように優子は、森宮さんが卒業した高校に電話を掛けて、当時森宮さんが合唱コンクールで歌った曲(中島みゆきの糸)を調べていました。急に優子が演奏を始めると、森宮さんは驚きながらも歌い始めてくれます。

読みながら頭の中で「糸」がBGMとして聞こえてくるようです。森宮さんは常に「変な言動」を繰り返しますが、そこには親子の愛情がブレずにあり、ちゃんと優子が理解しているところが出ていると感じられて、大好きで良いシーンでした。

歌やピアノの音楽と楽しい食事シーンで、物語を更に盛り上げてくれてます。

「優子ちゃんと暮らし始めて、明日はちゃんと二つになったよ。自分のと、自分のよりずっと大事な明日が、毎日やってくる。すごいよな」

本書より引用

そのトンチンカンだけど、ちゃんとした父親になろうと頑張っている森宮さんの名言です。

こんな名言を、実の親から言われた事がある人いるのだろうか?きっとこれは血の繋がって無い親だからこそ、言えるセリフではないかと思います。

森宮さんはそれまで一人で暮らしをしていて、結婚することも考えてませんでした。しかし急に高校生の子供ができたことにより「自分のよりずっと大事な明日」を感じられています。その気持が素敵すぎます。

そしてそれを嬉しそうに喜びながら優子にも話して、日々の生活にもその気持が見られます。

朝日と砂浜と波と鳥達

バトンの意味

この本の帯を読んでから「バトン」は、主人公の優子のことだと思っていましたが、後半になると優子だけじゃなく、そこにある愛情や将来の期待など、気持ちも一緒に託されているんだと感じました。

『本当に幸せなのは、誰かと共に喜びを紡いでいる時じゃない。自分の知らない大きな未来へとバトンを渡す時だ。』

本書より引用

このラストシーンの一文を読んで「バトン」の意味が優子だけではなく、血の繋がりの無い歴代の親達から、無条件に注がれるたっぷりの愛情が「バトン」なんだと感じて泣いてしまいました。

 

この本を読み終えてから、自分の周りの人に優しくしたいという気持ちになり、この気持ちが「著者からのバトン」に思えてきます。自分も大切な人達に「バトン」を渡したいと思わせてくれる、優しい気持ちにさせてくれる1冊でした。

私のバトン

私は離婚をしてから、一度できた家族から離れて一人で暮らした時期がありました。一人になった時は孤独が辛すぎて、結婚しなければ、ずっと一人でいたならば、こんなに孤独を感じなくて済んだのでは?と後悔のような感情を毎日抱いていました。

今は再婚できて幸せを感じられます。その孤独の辛さを乗り越えられたからだと思っています。結婚も離婚も再婚も、その他のことも自分で選択して決断して今があります。そう思うと今ある自分の人生も、過去の自分からのバトンのように思えてきます。

 

さらにその時は気が付きませんでしたが、辛かった時期を思い出してみると、優しく声を掛けてくれた人、引っ越しを手伝ってくれた仲間、何度も泊まりに来てくれた息子、再婚してくれた妻や妻の家族などなど決して一人ではなかったということが分かります。

そうなのです、その時周りにいてくれたこんなにも多くの人から「バトン」を受け取っていたことに気が付きました。

「バトン」は、いつまでも自分で持ち続けるモノではなく、人に渡して成り立ちます。これからは自分が、受け取っていた多くの「バトン」を渡す側にならなければ!と感謝しながら思うのでありました。

 

まだ2月ですが今年オススメの1冊になりました(笑)

最後までお読みくださいまして、ありがとうございました。

ABOUT ME
アガイ
アガイ
20代に婿養子になり、息子が出来てから離婚を致しました。 離婚ショックから回復した時の経験を書き 過去の私と同じ様に辛い思いをしている人を 少しでも楽にしたいです。