我が家の素敵な休日の朝
10月のある土曜日。
朝起きてテレビを付けると、お天気お姉さんが元気よく喋っていた。
その予報によると、明日から11月並の気温で寒くなり、半袖で過ごせるのは今日までらしい。
どうやら10月中旬まで粘っていた残暑が終わり、明日から一気に秋が深まる。半袖は今日までと言われると、とにかく半袖を楽しもうと思う。どうやって楽しむのかは、分からないが…
10月生まれということもあるのか、この少し寒くなる時期が大好きだ。
暑くて活発的に動き回る夏も好きだが、秋には少し落ち着いた大人な雰囲気がある。金木犀の香りも良いし、栗や葡萄、キノコにサンマと食べ物も美味しい。
何よりも愛猫が、夜な夜な布団に入ってきて、一緒に寝てくれるのだ!寒い夜の始まりを教えてくれる、秋は最高だ。
天気予報が終わるタイミングで、「おはよーごんじゃりますー!」と聞こえてくる。
目が半開きの妻がリビングに入ってきた。低血圧のせいか朝が苦手らしく、ドアやカウンターにぶつかりながら、僕が座るソファーに近づいてくる。
先程の挨拶がなければ、完全なゾンビだ。
念の為、ゾンビだった場合を想定してみる。相手がゾンビなら「来るな!」と叫んでも、手元にあるリモコンなどを投げつけても、近づくことは止めないだろう。
殺るときは確実に眉間を撃ち抜くしかない。
そんなことを考えていると、ゾンビは僕が座っているソファーにつまずき、転びそうになっている。
反射的に腕を動かし、手をソファーに付こうとしているがスマホを持っていた。
朝のゾンビは手の力が弱く、動いた勢いでスマホは手を離れる。
そして僕の眉間を目掛けて飛んでくる!咄嗟に手で防いで一命をとりとめたが、思わず「逆ゾンビかよ!」と意味不明なツッコミをしてしまった。
スマホを飛ばした逆ゾンビは、ソファーに崩れ落ちようとしていた。
次の瞬間、どこかに何かをぶつけたらしく「イターーイ」と泣き叫びだした。ドSな私はその泣き顔を見て「ヒャッハッハー」と笑っていたが、ハッと気が付く。
他人が痛がっているのを笑っている、自分こそゾンビではないが悪魔的な何かに、取り憑かれているのでは?とさらなる恐怖に背筋がゾクッとする。
そしてどこからか誰かに見られている気がして、焦って辺りを見回す。
キッチンカウンターへ目をやると、猫のイギーさまが冷静な表情をして鎮座している。目が合いドキッとするが、イギーさまは一つも表情を変えず僕か僕の何かを見つめていた。
そんな素敵な朝がようやく落ち着くと、先程の情報を倒れている逆ゾンに伝えた。
「明日から寒くて、半袖は今日までだって」
「はうー!」
まだゾンビだったのかも知れないが、返事はしてくれた。
一応確認のため、2本の指で鼻フックをしてみると、嫌がる反応はしてくれた。
この日の予定は、妻とお出かけ。準備ができ、車に乗り込む。
走る車の中でゾンビから回復したいつもの妻と、色々な会話をしていた。すると貴重な情報を教えてくれた。
「明日から寒いから、半袖は今日までだって」
「さっき俺が言ったんだ!」と言いたくなるが、これは天然さまのご降臨である。ツッコミではなく、感謝を伝えねば。
「それはそれは、有り難うございます」
天然さまは、満足そうにうなずくだけであった。
通い慣れたカフェでの事件
翌日。天然さまから寒くなると教えて頂いた日だ。
特に予定のない日曜日はモーニングを目的に、カフェに行くのが定番になっている。
カフェに行きモーニングを食べて、本を読んだり、PC作業したりする。これだけで、楽しそうでテンショナがる。
毎週、同じカフェに通うので、店員さんに顔を覚えてもらった。
店に入ると何も言わないが、同じ席に通してもらえる。
その席は通い初めの頃、お好きな席にどうぞと言われ、座った場所だった。少し特別な扱いをしてもらえて、気持が良い。
ただ毎週来店はするが、PC作業などで長時間に渡り居座っている。注文はモーニングのお得なセットばかりで、お店にとってはあまり良いお客ではないと思う。
しかし優しい店員さんは丁寧な対応をしてくれるのだ。
そんな嬉しい対応に、今日はお礼を言おうと決めていた。
いつもの席に案内してくれた店員さんに、笑顔で「いつも有り難うございます」と頭を下げた。すると店員さんは一瞬、マスクの下で驚いた表情して(したと思う)「こちらこそ、いつも有り難うございます」と笑顔を返してくれた。
気持ちが良い!店員さん、席、お店、そして美味しいコーヒー!このカフェは、ただ食べ物や飲み物を提供するだけじゃなく、日曜日の午前中という時間を、最高の気分にするというサービスまで提供してくれる。
その気持に感動して全俺が泣く。
気分良く通い慣れたカフェの店内を、改めてゆっくり見回していた。すると視界の隅に、腕を組むように、両手で両腕をこすっている天然さまがいた。
そして一言「寒いね」と言い放った。
落ち着いて妻の服装を見ると、昨日と同じような薄手のワンピースを着ていた。
「昨日言ってた、寒いって話わい!!」
今日から寒くなると教え、それを自分の話の如く私に教えたのに!何も活かしてない!まさか天然さまの二段落ちが、用意されていたとは。
我慢できずツッコミを入れてしまった。
せっかくの良い気分から、現実に引き戻されいつもと変わらないカフェになってしまった。ちなみに寒くなるという情報を得て、上着を着ていた私は全く寒く無かった。